和歌山地方裁判所 平成10年(わ)193号
右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所では、検察官大谷晃大、弁護人平田友三、同神宮壽雄各出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人を懲役一年六か月及び罰金五〇〇〇万円に処する。
右罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。
理由
(犯罪事実)
被告人は、和歌山県田辺市朝日ケ丘一五番一〇号に居住し、同市内において、消費者金融業、酒類販売業及び不動産賃貸業を営んでいたものであるが、自己の所得税を免れようと企て
第一 平成五年分の総所得金額が一億四四七二万一〇四六円で、これに対する所得税額が六七五五万七〇〇〇円であるにもかかわらず、利息収入の一部を除外するなどして所得の一部を秘匿した上、平成六年三月一五日、和歌山県田辺市上屋敷町一一四番地所在の所轄田辺税務署において、同税務署長に対し、平成五年分の総所得金額が四八一九万一八五一円で、これに対する所得税額が一九二九万二五〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同年分の所得税四八二六万四五〇〇円を免れた
第二 平成六年分の総所得金額が二億〇八一七万五二一七円で、これに対する所得税額が九七二三万五五〇〇円であるにもかかわらず、前同様の手段により所得の一部を秘匿した上、平成七年三月一三日、前記田辺税務署において、同税務署長に対し、平成六年分の総所得金額が六一七〇万七二三九円で、これに対する所得税額が二四〇〇万一五〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同年分の所得税七三二三万四〇〇〇円を免れた
第三 平成七年分の総所得金額が二億一九六五万一一六八円で、これに対する所得税額が一億〇二八〇万五五〇〇円であるにもかかわらず、前同様の手段により所得の一部を秘匿した上、平成八年三月一三日、前記田辺税務署において、同税務署長に対し、平成七年分の総所得金額が六八二一万八六九八円で、これに対する所得税額が二七〇八万九〇〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同年分の所得税七五七一万六五〇〇円を免れた
ものである。
(証拠の標目-かっこ内は証拠等関係カード記載の検察官請求証拠の甲乙の番号である。)
判示事実全部について
一 被告人の当公判廷における供述
一 被告人の検察官(乙三、四、六ないし八)及び大蔵事務官(乙五、九、一〇)に対する各供述調書
一 中野扶美子(甲二九)、滝本幸代(甲三〇)及び古久保賢治(甲三一)の検察官に対する各供述調書
一 大蔵事務官作成の捜査報告書(甲九)及び査察官調査書(甲一〇ないし一四、一八、二〇、二一、二三ないし二六、二八)
一 検察事務官作成の捜査報告書(甲三三)
判示第一及び第三の各事実について
一 大蔵事務官作成の査察官調査書(甲一七、二七)
判示第一の事実について
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書(甲三)及び査察官調査書(甲一九)
一 田辺税務署長作成の「証明書」と題する書面(甲六)
判示第二の事実について
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書(甲四)
一 田辺税務署長作成の「証明書」と題する書面(甲七)
判示第三の事実について
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書(甲五)及び査察官調査書(甲一五、一六、二二)
一 田辺税務署長作成の「証明書」と題する書面(甲八)
(法令の適用)
罰条 いずれも平成一〇年法律第二四号附則二〇条により、同法による改正前の所得税法二三八条一項、情状により所得税法二三八条二項
刑種の選択 懲役刑と罰金刑の併科
併合罪の処理 平成七年法律第九一号(以下「新法」という。)附則二条二項により刑法四五条前段、懲役刑については四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重)、罰金刑については刑法四八条二項
労役場留置 新法附則二条二項、三項により刑法一八条
刑の執行猶予 新法附則二条二項、三項により刑法二五条一項(懲役刑について)
(量刑の理由)
本件は、消費者金融業等を営む被告人が、三年間にわたって所得税を脱税したという事案である。
被告人は、昭和五〇年ころから消費者金融業を始め、その後、酒類販売業や不動産賃貸業も行うようになったが、ニューヨークでの輸入雑貨の商売などの新たな事業展開や事業の拡大のため、納税資金をこのような事業資金に回そうと考え、また、以前に酒類のディスカウント販売をめぐって税務署から圧力をかけられたことがあり、税務署に対して反感を抱いていたこともあって、平成二年ころから所得税の過少申告を行うようになり、本件各犯行に及んだもので、利己的な犯行動機に特段酌むべき点は認められない。犯行態様は、二重帳簿を作成するなどの方法により消費者金融業の主たる収入源である利息収入を実際よりも少なく押さえるというものであるところ、本件による脱税額は三年分の合計で二億円弱と巨額であり、脱税率も三年分を通じて約七四パーセントと低いものではなく、以上によれば、犯情は悪質である。
他方、本件における所得秘匿の手段はさして巧妙なものではなく、被告人は、国税局の査察を受けると、素直に事実を認め、調査にも協力していること、本件にかかる所得税の本税、延滞税、重加算税、さらには地方税についても全て納付済みであり、また、告発対象とならなかった平成四年度分についても修正申告を行った上で納税していること、被告人はこのように巨額の脱税をしたことを深く反省し、今後二度とこのような脱税行為はしない旨誓うとともに、個人経営であった消費者金融業を法人化し、新たに顧問税理士を頼み、同税理士の指導監督のもと、経理の明瞭化を図っていること、業務上過失傷害による罰金前科以外に前科はなく、本件を別にすれば仕事も真面目に行ってきたこと、本件がマスメディアによって報道されるなど、一定の社会的制裁も受けていること、などの被告人のために酌むべき事情も認められるので、被告人を主文掲記の懲役刑及び罰金刑に処した上で、懲役刑については刑の執行を猶予するのを相当と認めた。
(検察官の科刑意見 懲役一年六か月及び罰金六〇〇〇万円)
(裁判官 柴山智)